2012年3月31日土曜日

Venture Capitalist に必要な資質 - パターン認識力


「Venture Capitalistの最も重要な資質はパターン認識力だ」


先日のエントリーでも紹介したFormation of New Venturesという授業で、自身Venture Capitalistでもある実務家教授Jim Ellisが繰り返し言っていた言葉だ。

スタートアップは、一つ一つ独特であって常に独自の課題にぶつかっていると思われがちだが、実は、直面している問題の多くは過去繰り返し起こったことである。大手企業と異なり経営資源/インフラに乏しいスタートアップにおける最大の財産は人であるが、その人の採用/解雇における問題(例えば、マネジメント・チームで不和が生じた場合にどう解決するか、現マネジメント・チームのパフォーマンスが芳しくない場合に外部人材の登用等をどのように行うか)においては特にそれが当てはまる。また、人事以外でも大きな意思決定、たとえば、大企業との提携/独立維持、外部から資金調達/内部留保の利用等の意思決定を現状のビジネスの状況に鑑み適切に行う際にも、過去の類似事例が役に立つ。これらの事項について、投資先に適切なアドバイスを提供できることがVenture Capitalistの必要な資質というわけだ。

以上は投資後の経営サポートに関する側面であるが、投資の意思決定の際にもパターン認識力は重要な役割を果たす。投資検討中の会社のビジネスモデルが過去/現在の類似事例に鑑みsustainableなものか、その創業者と似たようなスキル/経験を有した過去の事例の成功確率はどの程度であったか等を総合的に判断できる能力が、投資先の選定において極めて重要となる。

当然ながら、過去類似事例における解決策が常に妥当するわけではなく、妥当性については個別具体的に判断する必要がある。しかしながら、それは、そのような類似事例の活用自体の価値を否定するものではない。全く参考すべき事例がない中で、経営上/投資すべきか否かの重要な意思決定を行うことは、羅針盤を持たずに大海原を航海するようなものだ。重要なのは、類似事例で得られた経験を新たな事例にどのように活かすかであり、それが、教授の言うところのパターン認識力ということなのだと思う。

このパターン認識力は、Venture Capitalist以外にとっても極めて重要なスキルと考えるが、その点については、また後日書きたいと思う。


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2012年3月15日木曜日

起業ノススメ

Stanford GSBの名物授業の一つに、起業家(entrepreneur)が、Business Ideaの発掘から会社の設立・事業拡大・Exist(売却・IPO)までそれぞれの過程で直面する問題に関して、ケーススタディーの形式で学ぶ、Formation of New Venturesという授業がある。本日は、その最終講義だった。

本コースでは、合計17のケースを取り扱い、合計24名のゲスト・スピーカー(ケースに登場する起業家)を迎えた。講義の前半にケースを元にクラスで議論を行い、後半にゲスト・スピーカーに対する質問の機会が与えられる、という形式で授業は進められた。

最終講義の本日、実務家教授のJim Ellisが、我々生徒にはなむけの言葉を贈ってくれた。


1. 起業家という選択肢の意味

起業は、他の職業と比べてより高貴な職業であるわけではない。素晴らしい職業は他にもたくさんある。全ての人が起業家に向いているわけでもない。もし、この授業で取り扱ったケースや訪問してくれたゲスト・スピーカーの話に興奮しなかったら、起業家という職業は向いていない。それがわかっただけでもこの授業を取った意味があると思う。

他方で、起業家という仕事はMBAの学生が典型的に進むキャリア(大手のコンサルティング、投資銀行、投資会社への就職)と比べて、責任(obligation)という点で大きく異なる。起業家は、従業員そしてその家族の生活に責任を有しているし、投資家にも全面的/直接的な責任を有する。また、起業家は多くのエネルギーと時間を割く必要があるし、孤独とも戦う必要がある。


2. 起業の成功の秘訣

この授業で見てきたとおり、起業に成功の秘訣などない。実際、君たちの多くは、ゲスト・スピーカーを見て、「この程度の人が成功したのなら、私も成功できるに違いない」と一度や二度は思ったに違いない。それは間違っていない。なぜなら、問題は「できるかどうか」ではなく「やりぬく意思があるかどうか」だからだ。

MBAで学ぶ戦略論やコーポレート・ファイナンスの知識はあった方がいいが、それが起業の成否を分けるわけではない。数多くのケースで見たとおり、起業家が直面する最も重要な問題は、MBAの授業では通常取り扱わないような問題、例えば、採用・解雇、カルチャーの維持等であり、何より重要なのでは、分析ではなく、実行力だ。そして、実行力は、全て人をどう管理・鼓舞するかにかかっている。

起業家は、とても孤独な職業だ。それゆえ、パートナーと共同して起業することも選択肢として考えられる。しかし、パートナーの選択には慎重であるべきだ。似たような興味やスキルを持った共同創業者のスタートアップは失敗するケースが非常に多い。共同で起業する際には、予め明確に役割分担をすることが望ましい。


3. タイミング

タイミングに関して言うと、起業は子供を生むのと似ている。仕事、給与レベル、教育の場所等を深く考えるといつまでたっても子供を生むという意思決定ができないのと同様、完全なアイデアやスキルの獲得を待っているといつまでも起業はできない。どこかの段階で割り切った決断が必要だ。そして、割り切った判断は、年を経て家族ができ、給与水準が上がると、益々しずらくなっていくものだ。


4. 成功する起業家の共通点

起業に成功の秘訣はないが、成功した起業家の共通点はいくつか挙げることができる。

まず、彼らは、明確な目標を設定し、そこに向かって進む突進力がある。この点は、多くのStanfordのMBA学生にも共通するだろうが、彼らが更に優れているのは、明確な目標設定/実現というフレームワークで動かないような人々に対しても、やる気を起こさせることができる点だ。それは通常、共鳴できるビジョンの設定、カルチャーの醸成、リーダーとしてのカリスマ性の発揮等を介して行われる。ゲストとして来校した起業家の多くがビジョンとカルチャーについて話していたこと自体が、その重要性を何よりも物語っている。

次に、彼らは、他人からアドバイスを受け、自己の間違いを認めるのに長けている。また、良いアドバイスを得ることができる前提として、彼らは、優秀な/素晴らしい人々に囲まれている。

彼らはまた、不必要なリスクを避けることができる。起業自体がリスクの高い職業であるが、その中であっても、取る必要の全くないリスクは存在する。彼らはそれを避ける術を知っている。

最後に、彼らは本能的に行動する人々である。彼らは、エクセルで複雑な計算したり、パワーポイントで綺麗なプレゼンテーション資料を作ることで評価されるわけではない。実行力が何より必要な資質である。


5. 最後に

起業という職業は、そのリスクが誇張される傾向がある。たしかに、起業はそのほとんどが失敗する。君達のように、今まで人生で目標を達成し続けてきた人々にとっては、失敗はとんでもなく怖いもののように映るかもしれない。しかし、考えてみて欲しい。君達のレジュメ(履歴書)があれば、仮に一度起業に失敗したとしても、就職先に困るようなことはないだろう。むしろ、いい経験としてプラスに働くだろうし、また他のスタートアップにチャレンジすることだって可能だ。失敗したケースのゲストとして来た起業家は皆「あの時こうすればよかった」と後悔していたが、誰も「起業しなければよかった」とは言っていなかったのを覚えているか?そのことが何を意味するか考えてみてほしい。

起業という職業は、その良い面が誇張される傾向がある。 起業家として成功しても、誰もがGoogleやFacebookの創業者のレベルの富を獲得できるわけではない。授業でも見たように、リスク・リターンの観点からは、起業は割のいい職業ではない。

多くの起業家にとって、起業は単なるお金を稼ぐための手段ではない。この授業では、自己の人生では使い切れないほどの富を築いた起業家を何人も見てきた。我々が生で感じたように、彼らはまだ自分の職業に誇りを持ち、毎朝仕事に行くのが楽しみと言わんばかりに仕事を楽しんでいる。彼らを突き動かすのはお金ではなく、自分が組織、顧客、業界、そして広く世の中に大きなインパクトを与えているという達成感/満足感だ。働く目的について、自分の胸に手を当てて考えてみて欲しい。もし君達がそういった達成感/満足感を味わいたいのであれば、起業という職業を強く勧めたい。



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2012年3月11日日曜日

シリコンバレーのVCがクリーンテックで成功できない理由

エネルギー業界を取り巻く規制環境及びそのビジネスへの影響に関して学ぶBusiness Model for Sustainable Energyという授業に、KKRのEnergy & Infrastructure投資部門のヘッドを務めるMarc S. Lipschultz氏がゲストスピーカーとして来校した。

同氏は、スタンフォード大学卒業後、ゴールドマンサックス、ハーバード・ビジネス・スクールを経てKKRに入社し、1995年からKKRでエネルギーセクターを担当してきた。



エネルギー分野の投資というと、近年シリコンバレーで流行っているクリーンテックの分野を思い浮かべる人も多いと思うが、アメリカは、石油・天然ガスとも世界有数の産出国であり、これらの伝統的なエネルギーの分野にも大きな投資チャンスがある。

KKRは、①大手のエネルギー会社(Exxon、Chevron等)が手を出さない、あるいは売却する小・中規模の(ニッチ)アセットを、②伝統的な独立のエネルギー会社/投資会社が用いてこなかったinnovativeな投資手法(転換社債の活用等)を用いて、③エネルギーの分野で経験・知識・意欲のあるマネジメントをサポートする形式で、買収・価値向上(具体的には石油/天然ガスの生産拡大)することにより、近年大成功を収めてきた。

同氏からは、通常の伝統的な(エネルギー業界を対象とはしない)投資ファンドとの相違点について、下記の興味深い示唆を得ることができた。
  • リスク・リターンの考え方の違い
    • エネルギー投資に必然的に付随する価格リスク・規制リスクは当然ながら、買収条件に織り込む。具体的には、リスクに応じて、投資認可のためのIRR(利回り)のハードルは高く設定せざるを得ないし、買収の際に用いる借入金(レバレッジ)の割合も通常の案件と比べると少なくせざるを得ない。
  • 社内の投資決定のプロセスの違い
    • エネルギーは相対的に技術的要素の強い分野であるため、外部専門家を活用する必要性が高いのは事実である。とはいえ、それは別にエネルギーに固有の問題ではない。非エネルギーセクター、例えば、テクノロジーセクターの一部についても同様のことが当てはまり、技術的要素はエネルギーを投資対象から外す理由にはならないはずだ。


実は、ここ10年で起こったエネルギー業界の一番の革命は、クリーンテック・再生エネルギーの分野ではなく、伝統的な天然ガスの分野で生じた。そう、シェール・ガスに関する技術革新である。シェール・ガスとは頁岩(シェール)層という硬い岩盤の地層に含まれる天然ガスのことで、従来から豊富に存在することはわかっていたが、経済的に採掘するのが困難と考えられてきた。それが、ここ数年のアメリカにおける技術革新で経済的に採掘することが可能となり、それがアメリカのみならず世界の石油・天然ガスをめぐる資源地図を塗り替える可能性を秘めるに至っている。

天然ガスは、他の化石燃料(石油、石炭等)と比較するとCO2の排出を初めとする環境負荷が極めて低いエネルギー資源であるため、天然ガスがエネルギー・システムでより多くの役割を果たすことは、地球環境にとっては望ましい。 ここでは技術革新の詳細(そして指摘されている環境問題)については述べないが、簡単に言うと、従来からあった、(i)Horizontal Drillingという技術と(ii)Hydraulic Fracturing ("fracking")という技術の組み合わせにより可能となった。

実は、この世界を揺るがしている世紀の技術開発は、エネルギー業界の多額の資金を注ぎ込んでいるシリコンバレーのベンチャー・キャピタル(VC)(の投資先)によって先導されたものではない。これは一つの例に過ぎないが、シリコンバレーのVCは、総じてエネルギー(クリーンテック)の分野では苦戦をしている。その理由につき、Marcは以下の点を挙げた。
  •  シリコンバレーのVCは、全く新しいもの、たとえば再生エネルギーであったり、革新的な新技術に興味を向けがちである。したがって、天然ガスという伝統的なエネルギーにおける、新技術ではなく既存の技術(Horizontal drillingとFracking)の組み合わせという革新をうまく捕らえることができなかったのではないか。
  • エネルギー分野でビジネス上相手とするのは、各地の電力会社等の公共事業(utility)であり、彼らはもっともリスクを好まない(したがって、新しい商品やサービスの購入をしない)生き物である。インターネットの分野で、大企業でも、興味を引くスタートアップの商品やサービスがあればそれを購入するのと比較すると、新商品・サービスが市場に受け入れられるのに極めて長い時間を要する。多くのVCは、その点を過小評価しているのではないか。


  *   *   *

エネルギーからは話が脱線するが、実は、上記の2点目の理由は、以前のエントリー(企業再生の第一人者・冨山 和彦さんとの会食)でも触れた冨山さんとの会食の際に、冨山さんがおっしゃっていた以下の言葉に関連して非常に興味深かった。

「日本と米国のスタートアップの環境の大きな違いの一つは、米国の会社は、大企業であっても、スタートアップの商品やサービスを積極的に購買する傾向があるということだ。たとえば、GoogleやFacebookに務めている人は、皆自分もいつかは起業しようと考えているため、自分の将来の姿を重ね合わせて、スタートアップとの情報交換も積極的に行おうとする。スタートアップにとっては、早い段階で商品・サービスを購入してくれる顧客を獲得し、キャッシュフローを黒字にすることが致命的であり、この点で、日本と米国には大きな差がある。」


シリコンバレーのVCが、クリーンテックの分野では、日本のように大企業の顧客への売上が困難なフィールドで戦っていると考えると、その苦戦も、何かすっと理解できた。


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2012年3月3日土曜日

企業再生の第一人者・冨山 和彦さんとの会食

先日、スタンフォードMBAの大先輩である冨山 和彦さんと会食する機会を持つことができた。

 

冨山さんといえば、言わずと知れた企業再生の第一人者であり、グローバル経営コンサルティング・ファームであるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)を経て、日系独立経営コンサルティング・ファームであるコーポレートディレクションを設立、その後、政府の打診により、2003年に産業再生機構の設立に参画し、代表取締役専務兼業務執行最高責任者(COO)を務めた。その後、2007年にコンサルティング・企業再生を取り扱う株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立、代表取締役CEOに就任し、現在に至る。

世界・日本のマクロ経済の話から、企業再生の現場の生々しい話、そして同氏が積極的に提言活動を行っている電力市場の再設計に関する話題まで、色々ととても興味深い話を伺うことができた(個人的には、電力市場の再設計の問題は、僕自身、アメリカのEnergy LawをLaw Schoolで学び、日本の電力市場の問題を環境科学のMSの卒論の中で取り扱っていることから、とりわけ興味深かった)。その中でも、以下の言葉が非常に印象的だった。

「長期的キャリアは計算して構築できるものではなく、目の前の仕事に全力で打ち込んだ結果ついてくるものである。」

華々しい経歴と、ビジネスそして政界まで広くわたるネットワークを持ち、様々なフィールドで活躍される同氏だが、自己が歩んできたキャリアは、目の前にある自己の興味のある仕事に打ち込んできた結果形成されたものであり、決して計算高く戦略的に行動した結果ではないと言っていた。曰く、

「企業再生をはじめ、非常に切迫した状況で、計算高く何をするかを考えている、いわば半身で構えている人間は、上司からすると非常に使いにくい。上司からすると、そういった人がどんなに優秀であったとしても、彼らが満足するような仕事を与えることを考えることの負担が非常に大きい。非常に切迫した状況では、何事にも全力で取り組んでくれる人のほうがはるかに価値が高い。長期的なキャリアの形成というのは、そういった一つ一つの仕事の積み重ねであり、計算高くうまくやりくりできるものではない。」


 *   *   *

ビジネス・スクールにいると、様々な人から話を聞いたり、色々な業界・キャリアパスについて考える時間が多くあるため、どのようにするか(How)よりも、何をするか(What)について、色々と考えてしまう傾向がある。しかし、一歩離れて考えてみると当たり前のことであるが、実際は、多くの場合、何をするかより(与えられた条件の中で)どのようにするかのほうが重要である。MBAでも、起業の文脈においては、ideaよりもexecusion(実行力)が大事である、と繰り返し聞かされるのであるが、それは、起業以外のキャリア形成においても同様に当てはまることであると、改めて認識した。

そして、自分が「半身」ではなく、全力で仕事に取り組むためには、自分が心から興味を持てる/価値を信じることができる仕事を選ぶことが重要であると再確認した。MBAの授業に来るゲストスピーカー(成功したビジネスパーソン)は、皆口を揃えて「卒業後は、短期的な給与レベル等に惑わされず、自分の好きなことをせよ」と言うが、そのような選択が、単に自己実現の観点のみではなく、長期的にはキャリアの成功の観点からも道理にかなったものであるのだろうと、大いに納得した。


最後に、冨山さんからは、最近出版された本(下記)まで頂戴してしまった。早速読ませていただいたが、テクニカルな点にはあえて触れず、わかり易く実践的ノウハウを伝えることに主眼を置いた内容となっており、明快な語り口の文章ですらすらと読めてしまった。経営分析・企業再生に興味のある人には強く勧めたい。冨山さん、ありがとうございました!





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