2011年9月23日金曜日

Why Lawyers (Can) Make Good Entrepreneurs

 かなり前の話になるが(2010年12月)、ビジネスに興味のある弁護士にとって興味深いと思われるPanel DiscussionがStanford大学で開催されたので、当時のメモを頼りにその内容を共有したい。

 Panel Discussionのテーマは、ずばり「弁護士はなぜ良い起業家になれるか(Why Lawyers (Can) Make Good Entrepreneurs)」。参加者は以下のとおり。

· Peter Thiel – President, Clarium Capital Management

· Jim Brock – Chairman and Co-founder, Attributor

· Matthew Prince – Co-founder and CEO, CloudFlare

· John Rodkin – CEO, Green Hedges

 Peter Thielといえば、スタンフォード大学時代は米国屈指のチェスの達人で、その後同校でJ.D.(法学博士)取得後、約3年間クレディ・スイスでデリバティブのトレーダーとして活躍、その後自己のヘッジファンドを立ち上げ、更にはPaypal(オンライン決済のサービスプロバイダー)を(共同)起業し、IPO、その後eBayに売却した、という華々しい(?)経歴の持ち主として有名だ。エンジェル投資家としても著名で、Facebookの起業時には約10%の持分を出資した。2010年のForbes 400(Forbes Magazineが発行しているアメリカの長者番付雑誌)では、純資産15億ドルで365位にランクインしている

 以下が同Discussionの概要。Law Schoolで開催され、聴講者がほぼLaw Schoolの生徒であったこともあってか、全般的に、Law Schoolの教育に肯定的な内容が多かった。参加者は皆、Law Schoolでの教育が起業家としての成功にプラスに貢献する可能性を肯定しつつも、両者で要求される資質は全く異なり成功の条件も大きく異なる、という点で意見が一致していたように思う(なお、以下は各人のコメントの総括であり、特段誰のコメントかは特定していない)。

プラスの点

  • 法律は、ビジネスモデルを考える際のPlatformになり得る。
  • 法律は、より理論的に厳密で、より人間的で、曖昧さを扱うという点に特徴がある。他方で、MBAではフレームワークで物事を考えることを学べる。純粋に教育という点では、Law Schoolの方が優れていると思うし、起業の際に、単なるフレームワークを超えたこれらの知識/スキルは役立つ。
  • (Peter - ) Paypalのビジネスモデル検討の際に、規制をどのように考えるかという点で、Law Schoolで得た知識が大いに役に立った(*1)。
  • 法律家ではない人は、i) 法律について過度に心配するか、ii) 全く考慮しない傾向にある。正しいのは、その中間の考え方だ。
  • 起業家は、世の中に存在しないストーリーを説得的に語る必要がある。弁護士は、他人を説得する仕事であり、そのスキルは起業の際に多いに役に立つ。
  • 不法行為法では、どのように人々を動機付ける(incentivize)かを理論的に学ぶが、これは起業家としてチームをリードする際にも非常に役に立つ。
  • 起業家として契約交渉する際に、契約法の知識は役に立つ。

マイナスの点

  • Law Schoolは、最も学際的なコースの一つであり、様々な視点が学べるが、Law School = Pessimistic、MBA = Optimisticという傾向があり、その観点からは、Law Schoolの生徒は一般的には起業には向いていない。
  • Law Schoolの生徒は、MBAの生徒と比較して自己主張が足りない。授業中も、アグレッシブに手を上げる人は少ない。リーダーたる起業家には積極性が不可欠だ。
  • Law Schoolの生徒は、教室/図書館に閉じこもって勉強をし、アカデミックにフォーカスしすぎる傾向がある。単に理論を学ぶだけでなく、現実社会を探索すべきだ。

その他

  • 成功した起業家が仮に弁護士であったとすると、i) とても素晴らしい弁護士か、ii) とてもだめな弁護士のいずれかであろう。


 最後に、Panel Discussionに聴講に来ていたLaw Schoolの生徒の一人から、質問があった。

   「弁護士として法律実務を経験することは、起業を志す人にとってどの程度重要でしょうか?」

 Peterは、即座にこう答えた。

   「もし、起業家になりたいのであれば、”今”始めるべきだ。」


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*1 なお、Paypalと同様のビジネスモデルは、eBayとWells Fargoが共同で検討しており、技術力は後者の方が高かったが、Paypalのビジネスは銀行法との関係で適法性に疑義があったため、eBay/Wells Fargoは、そのリスクを取れず/動きが遅くなり、ベンチャー企業でありリスクをいくらでも取ることのできたPaypalが市場を制した。この逸話は、ベンチャー企業が大企業に対抗できる一つの実例を示しているように思われる。