以前もブログで紹介した(What do we need for sustainability?)インパクト・インベスティング(Impact investing)について、ImpactAssetsのマネージング・ディレクターのFran Seegull氏から話を聞く機会があった。
ImpactAssetsは、運用資産5,000万ドルのNon Profitのグローバルに活動する投資会社。自ら案件を行うのではなく、投資家の代わりに優秀なファンド・マネージャーを選択/モニターする、いわゆる、Fund of Fundsの形態をとっている。同社は、総額5億ドルを運用するCalvert Foundationによって設立された。
彼女は、慈善事業でキャリアをスタートし、その後、ハーバード・ビジネススクール(HBS)に入学。卒業後、ベンチャー・キャピタル勤務を経て、ImpactAssetsに参画した。
1. Impact Investingとは?
Impact Investingとは「社会的もしくは環境的善をもたらす事業やファンドに対して積極的に投資を行い、投資家に対しては少なくとも元本相当を返す投資」のことを言う("Investing for Social & Environmental Impact" Monitor Institute (2009))。
彼女は、Impact Investingと他の投資手法に違いにつき、以下の枠組みで説明してくれた。
- 伝統的投資手法(Traditional Investment)
- PE投資、ヘッジファンド、ベンチャー・キャピタル、投資信託等、経済的利益の追求のみを目的とする投資手法
- Socially Responsible Investment(社会的責任投資。SRI)
- 企業の社会的責任を考慮して行う投資。通常は、「(タバコ・軍事等)社会悪に関与している企業には投資しない」という、ネガティブ・スクリーンを用いる
- 通常は公開株・債権が投資対象
- ESG(Environmental, Social and Governance)投資
- 環境、社会、ガバナンスに対する企業の取り組みを積極的に組み入れた投資手法
- SRIとは異なり、ポジティブ・スクリーンとして社会的インパクトを考慮するが、必ずしも徹底されていない
- 例えば、マクドナルド、ウォルマートは近年全社を挙げて環境には大きな注意を払っているが、 社会の観点からは望ましいと言えるかは疑問
- 2006 年4 月に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)と国連グローバルコンパクト(UNGlobal Compact)が中心となって世界の主要な機関投資家とともに「責任投資原則(Principles for Responsible Investment, PRI)」を策定したのを契機に、注目を集めるようになった。
- 通常は公開株・債権が投資対象
- Impact Investment
- 積極的に 社会的なインパクトを考慮
- 通常は非公開株・債権(Private Equity/Debt)が投資対象
- Program-Related Investment(PRI)
- 米国税制上優遇措置を受けられる、財団による慈善目的の投資
- 通常は非公開株・債権(Private Equity/Debt)が投資対象
- Venture Philanthropy
- ベンチャー・キャピタルの手法(積極的な投資先への関与・サポート)を用いた慈善投資
- 通常は非公開株・債権(Private Equity/Debt)が投資対象
- Philanthropy Investment
- 純粋な慈善投資
- 通常は非公開株・債権(Private Equity/Debt)が投資対象
現状、Impactを与える投資対象としては、マイクロ・ファイナンス、ヘルスケア関連、そして途上国における中小企業・個人事業者(農業等)が多いようだ。 クリーンテックも当初は投資対象と見られていたが、同業界に対しては、魅力的な企業に対しては伝統的なベンチャー・キャピタルから資金提供がなされており、現状は、Impact Investing会社の大きな投資対象とはなっていないようだ。
現在、Impact Investingに手法で運用されている資産の総額は約500億ドルと推定されるが、Monitor Instituteが今後10年間で10倍の5,000億ドルに成長する(なお、現在のグローバルでの運用資産総額は約50兆ドルであり、これは運用資産総額の約1%)と推測している等、今後大きな成長が見込まれている。
2. 彼女が抱いた疑問 - 「1 + 1 ≠ 2 ?」
彼女は、アメリカにおける伝統的な慈善投資の手法 - 成功して資産を築いた人が寄付する(Make money and give it away)モデル - に疑問を持っていた。一部の成功者が慈善投資を行うのではなく、投資家が経済的リターンと共に社会的インパクトを与える「仕組み」を作ることにより、より安定的・持続的に社会的インパクトのある投資が行われるようにできないかと考えていた。
彼女は、アメリカにおける伝統的な慈善投資の手法 - 成功して資産を築いた人が寄付する(Make money and give it away)モデル - に疑問を持っていた。一部の成功者が慈善投資を行うのではなく、投資家が経済的リターンと共に社会的インパクトを与える「仕組み」を作ることにより、より安定的・持続的に社会的インパクトのある投資が行われるようにできないかと考えていた。
そして、HBS 在学中の1996年から98年の間に、当時新たなAlternative Asset Classとしてブームとなっていてヘッジファンドには目もくれずに、社会投資について研究し、社会的インパクトと経済的リターンには、通常考えたれているような負のシナジーではなく、正のシナジーがある(つまり、社会的インパクトと経済的インパクトの双方を追及することにより、両者の和を拡大できる)ことを提案した。しかし、当時は、そのような考え方は誰からも賛同を得ることはできなかったようだ。
3. Impact Investing会社のタイプ
Impact Investingの投資会社には、経済的リターンを第一義的に考えるタイプのファンド(Financial First)と、社会的インパクトを第一義的に考えるタイプのファンド(Impact First)の2種類がある。なお、ImpactAssetsは前者のタイプのようだ。
出所:"Investing for Social & Environmental Impact" Monitor Institute (2009) |
4. 最後に
最後に彼女は我々にこう語りかけた。
「直近の金融危機の原因の一つは、人々が唯一経済的利益を投資に求めたことだと思う。」
「MBAの学生が多く就職するような投資銀行での伝統的なファイナンスの仕事、経営コンサルティングでの問題解決のスキルは、Impact Investingでも多いに役に立つ。実際に私のビジネス・パートナーの一人は投資銀行出身で、慈善事業出身の私と相互補完的なチームを組むことができている。別に卒業後すぐにこの業界に入る必要はない。皆さんの一人でも多くが、この業界に興味を持ち、将来的にキャリアとして選択して、我々の仲間に加わってもらえると嬉しい。」
* * *
MBAで勉強する利点の一つに、自分が今まで考えもしなかったような仕事について、活躍する実務家から話を聞くことができ、自分のキャリアの選択肢・視野を広げることができるということが挙げられると思う。
今日のFran Seegull氏の講演は、まさにそのような機会を僕に提供してくれた。