(注:大手法律事務所の若手弁護士 は、数年の実務経験を経て、海外(主としてアメリカ)のロー・スクールのLLM(法学修士)に留学するのが通常である。なお、LLMは、アメリカ人を対象 とする3年コースのJ.D.とは異なり、主として海外で法学教育を受けた者を対象とする1年のコース。)
↓Energy Lawの授業で用いている教科書(ケースブック)
本授業で取り扱っているのは大きく以下の6点だ。
1. 公共企業(Public Utility)規制の根拠・歴史的経緯
- 歴史的経緯-英国コモンロー(約200年以上前(!)の判例)、米国の判例
- 根拠-公共企業規制の(経済的)根拠
- Cost of Service規制(いわゆる総括原価方式)の内容及び関連判例(いわゆるRate Case)
2. 米国Natural Gas業界の規制の変遷
- 業界構造
- 規制の変遷(規制→自由化)-関連判例及び立法
- 自由化が機能するための要件
- 自由化がもたらしたメリット
- 制度移行に伴い必然的に発生するコスト
3. 米国電力業界
4. 原子力発電
- 業界構造
- 卸売り市場における競争の導入
- 連邦政府 vs 州の規制権限
- カリフォルニア危機の原因・教訓
4. 原子力発電
- 米国における規制
- 興隆した理由
- Fukushimaの影響
5. 再生可能エネルギー
- 業界構造
- RPS(Renewable Portfolio Standard、電力会社に一定割合で再生可能エネルギーの導入を義務づける制度)
- FIT(Feed-in-Tariff、固定価格買取制度)
- その他インセンティブ制度
- 送電における課題
6. デマンドマネジメント
- DSM(Demand Side Management)とスマートグリッド
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ロー・スクールの授業は、ビジネス・スクールの授業との比較では、ケースを用いるという点で共通するが(そもそもケースメソッド自体がハーバード・ロー・スクールに起源がある)、以下の点で大きく異なるように感じた。
- MBAの授業では、ケースの事実関係の整理にそれなりに時間を用いるのに対して、ロー・スクールでは、判例の要点・射程距離にほとんどの時間を用いるという点で、より理論的な内容である。
- その結果、人によってKey Takeawayが異なる傾向にあるMBAの授業と比較して、Takeawayや学びのポイントが比較的明確である 。
- 余り差別化された考えがない場合でもどしどしと発言するMBAの生徒と比較すると、ロー・スクールの生徒は発言に関しては消極的である。ただし、その分、手を挙げて発言する場合の発言のレベルは総じて高い。
より印象的だったのが、既存の制定法の説明に終止する日本の法学教育(あくまで僕が大学生だった、日本にロー・スクールが存在しなかった時の学部レベルでの教育)と比較すると、数多くの裁判例により判例法が形成され、法の内容/解釈が実社会に即して比較的柔軟に変更され、それが立法にも影響を及ぼすという流れをうまく説明している点で、授業の内容が極めてダイナミックに感じられるという点だ。
もちろん、 この差異は、大陸法(制定法主義)と英米法(判例法主義)という制度の差異によるところが大きいであろが、それを割り引いたとしても、自分の大学時代の授業を振り返ってみると、大いに改良の余地があったと思わずにいられない。