「人生誰もがいくつかの運に巡り合っている。ほとんどの人がそれに気づかないし、多くの人がそれを活かすことができない。成功する人は、そんな運をうまく活かすことができる人だ。」
Strategyの大家であるRobert A Burgelman教授は一つの例として、1993年から2002年までCEOとして巨大な赤字を出して不振に陥っていたIBMを立て直したルイ・ガースナーの例を挙げた。
ガースナー氏はダートマス大学工学部を卒業した直後ハーバードビジネススクールに入り、1965年にマッキンゼーに新卒で入社し、すぐに頭角を現し9年で上級パートナーに昇進し、金融グループの責任者として上級指導委員会の委員となった。
マッキンゼーに12年間在籍した後、1977年にアメリカン・エクスプレスに旅行関連サービスグループの責任者として入社した。アメリカン・エクスプレスで様々なポストと経験した後、1989年にKKRが買収したRJRナビスコのCEOに就任し、RJRナビスコで4年間経営に携わった後、1993年にIBMのCEOに就任した。
ガースナーがIBMで行った改革は多岐に亘るが、有名な改革の一つに、製品中心だったIBMの事業体系をサービス中心に転換した点が挙げられる。 つまり、「コンピュータメーカ」から「サービスプロバイダ」への転換である。
教授は言う。
「サービスがITビジネスにおいて重要性を増しているということは、決してガースナー自身が自ら思いついたものではなく、営業担当の誰かから彼が聞き取った情報だ。ガースナーのすごさは、どんな経営者であっても、ある日偶然/運によって、現場から聞くであろうそういった情報を重要なものとして理解し、必要な調査をした上で、意思決定に用い、実行した点だ。
大事なのは、運それ自体ではなく、運を活かす力だ。そして、試作の立案のみではなく、実行するのがリーダーの役割だ。たとえ、革新的なアイデア自体はリーダーの発案ではなく、営業職の何某の発案であっても、後の人々は、それを実行したリーダーのアイデアとして、リーダーを高く評価するだろう。そうなったとき、あなたはリーダーとして成功したと言える。」
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「運」といえば、以前のエントリーでも少し触れた、僕が最も尊敬する投資家の一人である元上司(現在は独立して1000億円超の規模のヘッジファンドを運用中)が以前こう言っていた。
「正直言って、自分が1000億円超の規模のヘッジファンドのパートナーになれたのは運による部分が大きいよ。」
しかし、僕は、彼が現在のチャンスを掴むきっかけとなった出来事を知っている。僕らがオフィスで他愛もない話をしていたときに、その先輩が「今度○○(ヘッジファンドの共同創業者。当時から著名なファンドマネージャーだった)と食事をするんだよ。久しぶりだし、以前会ってから随分彼は成功して有名になっちゃったから緊張するよ。」と言っていたのを思い出す。
今から振り返ると、彼は、何らかの運命のめぐり合わせで設定されたその一回の食事をうまく活かして、現在の地位を築いたこととなる。そう、その先輩には、運を活かす力があったのだ。
Steve Jobsが2005年のStanfordでの卒業式で述べたように、人生の一つ一つの出来事である「点」を、将来を見越して「線」で繋ぐことはできない。できるのは振り返って繋ぐことのみだ。しかし、一つ一つの選択が将来を大きく変えることもまた真実である。少しでも将来に繋がる選択ができるよう、日々精進していきたい。