Stanford GSBには、View from the Topという、ビジネスリーダーによる講演が定期的に開催されている。
本日のゲストスピーカーは、Richard Fiarbank。Stanford大学経済学部卒業後、少年向けレクリエーション施設に勤めた後、Stanford GSBに入学。その後は、典型的Business Schoolの生徒と同様、コンサルティングファームに入社し、7年間コンサルタントとして勤めた後独立し、Capital Oneを設立した。
1. Capital One story
Capital Oneは、日本では馴染みの無い会社だが、アメリカ有数の金融機関だ。もともとクレジットカードビジネスからスタートし、その後、自動車ローンビジネスにも進出し、最近は、M&Aにより、Retail Bankingビジネスにも進出している。現在、全米で5番目に大きな銀行だ。
Stanford GSB時代からいつかは起業をしようと考えていたRichは、7年間コンサルタントとして勤務した後、起業の機会を探っている際に、クレジットカードビジネスにチャンスを見出した。彼は言う。
「既存プレーヤーは、今自分が行っていることが普遍的なビジネスモデルだと考えて疑わない傾向にあるが、世の中が大きく変わる際には、そのような固定概念は通用しないんだ。より最近になってあるビジネスモデルに馴染んだ人の方が、その古いやり方に深く関与してしまい、変革が難しくなるんだ。Capital Oneのストーリーは、クレジットカード事業の素人による、ゼロベースで客観的に物事を見ることの重要性を示す一つの例だと思う。」
彼は、以下の3つの点で、クレジットカードビジネスに大きな変革をもたらす可能性があると考えた。
- ITの発達により、クレジットカード業界では、従来と比較して、大量の情報が取得可能である
- にもかかわらず、クレジットカード会社はそれを活用せず、旧態依然の方法でビジネスを運営している
- クレジットリスクの異なる顧客に全て同一の価格(金利)を提供するというのは明らかにおかしい
もちろん、テクノロジーの起業と異なり、クレジットカード会社には多額の資金が必要だ。そこで、Richはコンサルティング会社の同僚Nigel Sponsorと共に、ITを駆使しカスタマイズされたサービスを提供する戦略(彼らはそれを「Information Based Strategy」(IBS)と呼んだ)を用いた事業プランを作成し、紆余曲折の末、1988年、バージニアの地方銀行Signet Bankの一部門として事業を始めた。Signet内で、Richのチームは早速データベースの構築及び商品開発を始めた。200回を超えるテスト実施の後、1991年に、魅力的な商品の開発に成功。同商品は大成功を収め、1994年、Richの事業部門は、Capital Oneとしてスピンオフ/IPOした。その後、前述のとおり、自動車ローン・Retail Bankingにも進出し、大きな成功を収めている。
Rich曰く、Capital One成功の理由は以下にある。
- 優秀な人材を雇う
- 最高のテクノロジーを開発するためのインフラを整備する
- 大学のように、いいアイデアが飛び交う文化を築く
彼は続ける。
「ミラクルはアイデアからくるのではない、実行力からくるものだ。」
「どの業界を選ぶかもとても重要だ。例えば、Apple、Googleがいるテクノロジー業界で、Start upが彼らと比肩するような成功を収められるか?自動車ローン業界は、大量の情報処理/分析が必要な点で実はハイテクなビジネスだが、既存プレーヤーはそう考えていないし、優秀な人材が過度の競争をしているわけでもない。実際、君達の誰も、卒業後に自動車ローン業界に入ろうと思っていないだろう?そういう場所にチャンスはあるものだよ。」
2. 学生に伝えたいいくつかのテーマ
!) Human Capital
情報が氾濫している現代社会において、人材の重要性は増している。最高の人材を獲得せよ。B+の人材は、仕事はこなすことができるが、会社を次のステップまで導いてくれない(”B+ Curse”)
2) Strategy is Important
ほとんどの会社は、本当の意味でも戦略を持っていない。戦略はコスト削減等の事業改善とは異なるものだということを理解している人は少ない。
市場はとても複雑だが、必ずどこかにend game(最終の均衡点)がある。それを理解し、そこから後ろ向きに考えて今何をすべきかと熟考することが大事だ。
クレジットカードビジネスについても、本来あるべき姿(カスタマイズされたサービス)から出発して、必要なステップを考えた。
3) Leadership
リーダーシップは本から学べるものではない。勇気を持ち、リスクを取り、世界に自己をさらけ出す用意があること、それがリーダーシップだ。
誰もが、何か大きなことを成し遂げるチームの一員でありたいと思っている。そのような願望をかなえられる人間がリーダーだ。
4) Power of Feedback
経験から判断するに、他人にフィードバックを求める姿勢とその後の成長カーブには大きな相関性があるように思う。他人にアドバイスをできる人はそれなりにいるが、自らフィードバックを求める人は少ない。
5) Work life balance
自分にとっては家族が何よりも大事だ。よく、「仕事で家族と一緒にいる時間が足りない」と言う人がいるが、それは、会社のせいでも上司のせいでもなく、自分の選択した結果ということを認識すべきだ。私は、コンサルタント時代、毎日2時間半は子供と過ごすと心に決め、毎日過ごした時間を記録していた。どんな忙しいときも、それは守ることにした。
自分にとって大事なものがあるなら、それは守り抜くべきだ。そして、守ることによる悪い結果を受け入れる用意が必要だ。ただ、その用意があれば、不思議と実際には悪い結果には直面しないものだ。
実際のところ、私は8人の子どもがいるが、子育てを通じて、リーダーシップを含め、とても多くのことを学んだ。
6) 4Hs
私が採用の際に重要視している4つのHがある。
- Horse Power – 不思議と、よいAthleteは仕事ができる傾向にある
- Hunger – 何をするにもやる気が大事だ
- Heart - ビジネスは頭ではなく心で行うものだ
- Humility – 自信と謙虚さの絶妙なコンビネーションが必要だ
7) Chase Success, or Dream?
最後に、私が会社経営を通じて得た一番の教訓を共有したい。
成功を求めることはImpure Questだ。あなたが成功を追い求めているのを、誰が助けてくれようか。誰が自ら多大な犠牲を払ってあなたを助けようとしようか。
一方、夢を求めることはPure Questだ。多くの仲間が、あなたをサポートしてくれるだろう。結局のところ、最も大事なのはリーダー自身ではなく、その夢をサポートしてくれる仲間たちなんだ。